イングランドの仮想通貨事情とは?|中央銀行発行デジタル通貨導入の是非を問う




仮想通貨やデジタル通貨の普及が急速に進み、世界経済が様変わりしつつある昨今。しかし世界の金融をリードする先進国の一つ、イギリスでは『その流れに待ったをかける動き』が出始めています。

2018年3月、イギリス政府の主導により、イギリス大蔵省、イギリスの中央銀行であるイングランド銀行、金融行動監視機構(FCA)の3者が共同で仮想通貨専門チームを組織し、仮想通貨やデジタル通貨、ブロックチェーンの分野においてどのような規制が必要となるか議論を重ねたというニュースが流れました。

同時期にイングランド銀行が中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)に関する調査結果をまとめた2018年5月版のスタッフ・ワーキングペーパーでは、イングランド銀行はCBDCの導入に対して反対はしないものの、消極的肯定の立場をとっています。

中央集権的な管理権威を持たない仮想通貨に対して、国の中央銀行という後ろ盾があるCBDCはより信頼性が高そうに感じますが、そこにどのような問題が潜んでいるのでしょうか。

 

中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)とは?

中央銀行発行デジタル通貨(CBDC)には3つの定義があるとされています。

  • デジタル化されていること
  • 円などの法定通貨建てであること
  • 中央銀行の債務として発行されること

 

このデジタル通貨を活用することで、ユーザーの利便性の向上のみならず、金融政策の有効性の確保や通貨発行益減少の防止など、様々なメリットを享受することができるようになります。そのため、すでに多くの国々が導入を検討し始めています。

例えば、世界に先駆けてキャッシュレス化社会が進んでいる北欧のスウェーデンでは、前述の中央銀行リクスバンクが通貨クローナの仮想通貨版である「e-クローナ」の導入に向けた工程表を2017年に発表しました。2018年末までにその導入の是非を決定するとしています。

その以外にもスイスが「e-フラン」導入に向け調査を進めているほか、ノルウェー中央銀行やインド準備銀行、中国人民銀行など、世界各国の中央銀行がCBDC導入に対する興味を示しました。IT先進国がこぞって研究を進めている感がありますね。

フィンテック企業のR3のリサーチャーも、2018年中にCBDCが実世界で導入されるだろうとの見解を示しているほどです。

 

CBDCが主流となれば商業銀行が大ダメージを受ける可能性も

とはいえ、そこにはまだ多くの問題も残っています。それは、CBDCの普及が商業銀行のビジネスモデルを破壊する恐れがあることです。

CBDCは、消費者に中央銀行に預金するという新たな選択肢をもたらします。大衆の心理としては、民間の商業銀行よりも中央銀行によるCBDCをより安全な預金場所だと消費者が認識する可能性が高いと私は考えます。そして新たな支払いや送金の手段としても多くの人にCBDCが選ばれることとなるでしょう。

そうなれば商業銀行から預金が流出し、その経営に悪影響を及ぼす可能性があるといえます。このことは、イングランド銀行も指摘している通りです。

中央銀行の相互決済を行う国際組織である国際決済銀行(BIS)もまた、同様の立場を取っています。2018年3月の発表において、CBDCの発行は市場にストレスがあった場合には金融の不安定化を招くほか、資金移動が容易となることが銀行業における様々なトラブルの要因となり得るとの仮説を立てています。

 

イングランド銀行総裁はCBDCや仮想通貨に懐疑的

5月25日に行われたスウェーデンの中央銀行であるリクスバンク(スウェーデン国立銀行)の350周年記念式典において、イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、CBDCの導入に対して一定の理解は示したものの、すぐにそれが実現することはないと強調しました。

仮想通貨に対しても懐疑的な立場を示しています。ロンドンのリージェンツ大学で行われたイベントでは、ビットコインのような仮想通貨は至る所に散らばっているため価値の保存もできず、交換の手段としても誰も使っていない、従来の通貨における2つの主な必要条件を満たせていないものだと批判しました。

ただし、同時に「仮想通貨の基礎となる技術は、分散型の方法で金融取引を照合する方法として有用となるかもしれない」とも述べており、今後の技術の発展次第ともとれるコメントを残しています。

 

導入には慎重に検討を重ねるべき

個人的には、カーニー総裁の意見には大いに賛成です。仮想通貨もCBDCも、上手に使うことができればより世界経済を活発にすることができるツールとなるでしょう。

しかし、使い方を間違えたらそれこそ原子力のようになにもかも破壊してしまいかねない代物でもあります。

それだけに、慎重に研究と検討を重ねていくことが重要となるでしょう。ギリシャの経済破たんがユーロ圏全体の経済危機につながってしまったように、現代では一国の失敗が全体の失敗ともなるのですから。

2018年5月21日に開かれた前述の仮想通貨専門チームの第1回会議には、大蔵省の金融サービス部門のトップであるキャサリン・ブラディック氏、イングランド銀行の副総裁デイブ・ラムスデン氏、そしてFCAの責任者アンドリュー・ベイリー氏と、それぞれの責任者クラスが出席していました。

少なくとも、イギリスにはこの問題を過小評価することなく、国の機関が連動して対応していこうという姿勢を見て取ることができます。便利な新技術だからといって飛びつくのではなく、十分に制御できる段階まで研究を重ねたうえで活用し始めてほしいものです。